映像記憶力みたいなものがマジでない。
 要するに見たままの視覚的な情報を見たままに覚えることが全然できない。どんなに仲のいい友達でも詳細な顔を思い出すことはできないし、長年住んでいた実家近くの風景もパッと思い浮かばない。
何度も見た大好きな映画の大好きなシーンもなんだかぼんやりしている。ハンバーガーをかじった時のサミュエル・L・ジャクソンどんな顔してたっけな。

 そもそもあまり視覚的な情報に関心がないのかもしれない。
昔から「ストーリーはともかく映像がすごいから見た方がいい」とかの評価がされている映像作品を見てもあまり感動しなかったし、どちらかといえば小説なんかのすごく気の利いた一節に鳥肌が立って心臓がドキドキする感動を覚えるタイプだ。

 「見て覚える」ことも苦手だ。「じゃあ今やった通りに真似してみて」なんて言われても困ってしまう。「技を盗む」なんてもってのほかだ。僕が一流の寿司職人を目指して昔気質の寿司屋に弟子入りしたら一生皿洗いで終わるだろう。
 何事も文字しか書かれていないやつでいいからマニュアルを読んだ方がすんなり頭に入る。友達と初めてやるボードゲームで遊ぶときに「まあ、とりあえずやってみましょうか!」などと言われれると「あ?マニュアル熟読させたうえで定石教えろや……」と思ってしまう。
 つまり割と文字マンということです。文章の方がスッと頭に入るし、なにか覚えるときは文字に変換して覚える。例えばトランプの神経衰弱をやるときは、カードの図柄と数字と配置を見たままに覚えるのではなくて、「ハートのA、B列の3行目」みたいな感じで覚えるという感じ。まあ、記憶力むちゃくちゃ悪いからどちらにせよ忘れるんだけど。

 こういう人は一般的にもありふれているし、もちろん日常生活においては全然困ってないんだけど、絵描きとしては結構悩んでいます。なにせ何度描いてもなかなか物の形を覚えられないんだからね。結構シンプルな絵でも何も見ないで描いてと言われたらかなり難しいです。ドラえもんは子供のころに描いたことがあるから描けるかもしれないけど、クレヨンしんちゃんは描けないと思う。悟空は絶対無理だね。オメェ、それでも絵描きなんか?(悟空)


 以前、漫画家の山本さほさんと神経衰弱的なカードの絵柄を覚える暗記ゲームをする機会があった。プレイヤーの前にパンとかリンゴとかお皿とかの絵が描かれているカードが並べられた後、10秒間絵柄と位置を記憶する時間が与えられ、カードが裏返される。その後出題者が読み上げるものがどのカードか当てるというシンプルなゲームだ。僕は前述のような言葉に変換する方法で記憶していたのに対して、さほさんは見たものを画像としてそのまま記憶していたようだった。出題者が「バナナ」とか「リンゴ」とかのシンプルなお題を出しているときは僕にもまだわかったが「にまい」という変化球的なお題を出してきた時、僕は全く対応できずにコチンコチンにフリーズした。しかし、さほさんは「オリャー!」や「もってけ泥棒!」などの威勢のいい声を発しながらカードをすぐに指さしていた。表になったそのカードには「2枚」のパンが描かれていた。映像として物事を記憶することに長けているさほさんだからこそ、絵をすぐに思い出して当てはまるカードを指すことができたのだろう。
 その瞬間「ハァーこりゃ参ったね」と僕は思った。出題者の意図にまんまとハマってしまったからではなく、売れっ子漫画家と自分の資質の違いに静かに絶望してしまったのだ。「絵描きってこういう人がなるんだよなぁ」と僕は思った。山本さほ、お前がナンバー1だ(ベジータ)。

 まあ、才能についてあれこれ悲観してもしょうがないので、今後もどっこいやっていきます。人生は配られたカードで勝負するしかないって犬も言っていた。
 なんのカードが配られているかは覚えてられないけどね。

 ところでここまで書いたものを読み返して思いましたが「視覚的な情報に関心がない」というのは完全に嘘ですね。美人が好きだから。
 形あるものを僕は信じています。

がり

ks


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