大昔、ポケモンカードのトレード詐欺にあったことがある。
僕がまだ旬の牡蠣みたいにプリプリに太っていた小学生高学年の頃、ポケモンで言えば金銀バージョンが発売した時期の話だ。

その時僕は、「次世代ワールドホビーフェア」というゲームとおもちゃのイベントに友達と遊びに行き、当時夢中だったポケモンカード(ちなみに最近また始めた)のブースで催しを楽しんでいた。イベントのプログラムとプログラムの間には待ち時間があるため、その時間にはプレイヤー同士のカードのトレードが盛んに行われており、僕たちも初めて会うプレイヤーとカードを交換していた。まだインターネットもそれほど普及していなかった時代、ポケモンカード以外に共通点のない人たちとの交流は新鮮な体験でとても楽しかった。

でもそんな時に事件は起こった。
ある少年が僕にカードのトレードを持ち掛けてきたのである。
彼は当時の僕たちと年は同じくらいだったと思うが、髪は茶髪で服装も派手。明らかに他の小学生とは異質な見た目をしていた。今だったら偏見をバリバリに効かせ「ムムッ、不良っぽい怪しいやつ!」とちゃんと警戒するかもしれないが、当時の僕はまだキスもしたことない純情な埼玉のぼくちゃんであり、悪意に触れた経験もほとんどなかった。女の子と手を繋いだことすらなかった。おまけに旬のブリみたいにブリブリに太っていた。

彼はまず僕にカードを見せてくれないかと言った。僕は笑顔でうなずき、手持ちのカードが入ったバインダーを彼に渡した。同時に彼はカードの束を渡してきたので、僕はそれを見ていた。お互いにカードを一通り見終わった後、彼が「このカードと交換してほしい」と言って一枚のカードを提示してきた。LV.64のハガネール。
自分のバインダーを渡していたわけなので、僕は当然それが自分のハガネールだと思っており「ああ、いいよ」と言って彼のカードの束から交換してもいいカードを選ぼうとしたが、彼は「いや、これは僕のカードだから、これと交換してもいいカードはなにかない?」と言ってきた。少しおかしいなと思いつつ、それは持っているカードだからいらないという旨を伝えると彼は「わかった」と言い、自分のカードを回収してさっさとどこかへ行ってしまった。
嫌な予感がしたので、その後バインダーをチェックすると自分のコレクションからハガネールがすぽっとなくなっていた。やっぱりあれは僕のハガネールだったのだ。
彼は僕が彼のカードをチェックしている隙を見て僕のバインダーからハガネールを抜き取り、その後自分のカードだと主張しまんまと持ち去ってしまったのだ。

僕はハガネールの形にぽっかりと穴の空いたバインダーを持って、騙されて連れ去られたハガネールのことを想った。すごく悲しかった。友達と、その時に知り合ったポケモンカード大好きおじさんが慰めてくれた。それでもつらかった。
さよなら、ハガネール。


あの経験がたぶん明確な悪意に触れた最初の経験で、その後は人を疑うことを少しずつ覚えていったと思う。
でもとても「勉強になった」、「いい経験になった」なんて正当化して片づけられない体験だった。
連れ去られたハガネールのことと、あの時の僕のことを想うと今でも少し寂しい気持ちになるのだ。

haganeeru

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