「ねえ、何を集めているの?」と、私は尋ねた。
 少年はこちらを振り向くと、口元に少しだけ笑みを浮かべながら答えた。
 「人魚です」

 「人魚?その汚い泡が?」
 少年は道にだらしなく広がる茶色く濁った泡を両手でかき集めては、壊れやすい小さな生き物を捕まえる時のような優しい手つきで空のペットボトルへ大事そうに注ぎ入れていた。それは単なる後始末や収集ではない、日常と距離を置いた神秘性を感じさせるほどの儀式めいた行為に私の目には写り、興味を惹かれた。

 「そう、人魚。正確には人魚だったものですね。知りませんか?人魚は死ぬと泡になるんです。どうしてこんなところで泡になってしまったのかはわからないけれど、こんな道の端っこでほったらかされているのも気の毒だから、こうして集めて埋葬しに行こうと思ってるんです」と、少年は言った。

 「埋葬?埋葬って、どうするの?」私がまた尋ねると、
 「簡単なもんです」と少年は答えた。

 「簡単なもんです。この泡をできるだけ集めて海に流す。それだけ。焼いたり埋めたりしない。ただ海に還す。たったそれだけです。まあ、だから正確には埋葬ではないんですが、便宜上そう呼んでいます」
 「ふうん、シンプルなんだね。でもそれって、誰にでもできるの?その……資格とかは?」
 「いえいえ、なにせ人間相手じゃありませんから。資格なんてなんにもいりません。誰にでもできます。少し賢ければタコにだってできる」
 さらりと冗談を言った後に少年は一言付け加えた。
 「もちろん、あなたにも」

 少年との別れ際、人魚の死因について彼の見解を聞いてみると、少し考えたあとに少年は「やっぱり」と切り出し、「失恋じゃないですか」と言った。
 「人魚に失恋はつきものですから」
 私は深く納得した。



 タクシーを降りると、目の前はちゃんと海だった。
 7,800円を受け取った無愛想だが有能な運転手がその場からすぐに走り去ってしまうと、そこには私ひとりしかいなくなった。浜に打ち上げられたくらげすらいない。埋葬にうってつけの厳粛な場に思える。
 くらげの代わりに打ち上げられているたくさんのゴミが細長いカーペットみたいにどこまでも敷かれていてお世辞にもきれいとは言えないその海岸も、都会で恋に破れて死んだ名無しの人魚にはぴったりの雰囲気に感じられた。

 私は裸足になって砂浜に降り、ゴミを避けながらひょこひょこと波打ち際まで歩いた。季節外れの波が刺すように冷たい。
 コンビニの手提げ袋から少年に託されたポカリスエットのペットボトルを出してじっと覗いてみると、中には泡がほとんど消えて濁っているだけの汚れた液体が少量入っていた。こんなに汚れているのに光にかざすときらきらと光る。

 私はペットボトルを思い切り振った。
 中の液体が形を変えて再び泡になる。
 でたらめに胸の前で十字を切ったあと、ボトルのキャップを外して中身を静かに海へと流した。
 「レストインピース」

 人魚は無事に海へと還って行った。
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